片手にはいつも本

自由気ままに本を紹介していきます☘

【カレーライフ】スパイス香る青春カレー小説

今回の小説は「竹内真」さんの青春小説『カレーライフ』をご紹介させていただきます。

 

子供時代に祖父の営む洋食屋に集まってカレーをご馳走になって遊ぶ楽しい時間、その時祖父が倒れ亡くなってしまいます。

 

通夜の夜に、従兄弟同士の5人の子供たちは「大人になったら、カレー屋やろう」との誓いをしますが、やがて二十歳目前にした主人公ケンスケはいつしかそのことを忘れ、なんとなく過ごしていました。

 

ところが、偶然子どもの頃の誓いを聞いていた父親が癌に倒れ、余命いくばくもなくなると「お前カレー屋になるんだろう」と言い出し、勘違いしていた父は祖父の洋食屋の土地と建物を遺産として残します。

 

とりあえずといった感じでカレー屋を始めることにしたケンスケは、残りの従兄弟の協力を得ようと、彼らに会うための旅を始めます。

 

富士のふもとのキャンプ場から始まり、アメリバーモント州からカレーの本場インドまで、そして祖父の原点の地沖縄へと進んで行く旅の中、それぞれの思いや祖父の過去を知るなかで、ケンスケもまた、成長していきます。

 

700ページ越えの大容量ですが、スピード感のある展開なので一気にも一章ずつでも読み進める事ができます。一度読んでみてはいかがでしょうか。

 

カレー尽くしのこの一冊。この小説は読めばカレーが作りたくなるかもしれませんね。

【クリスマス・キャロル】クリスマスが少し淋しい方へ

今回ご紹介する本は、チャールズ・ディケンズ著の「クリスマス・キャロル」(光文社古典新訳文庫)です。

舞台はロンドン、クリスマス時期のお話です。

主人公は「スクルージ」という、ひねくれものの老人で、町で会計事務所を営んでいます。

誰に対しても冷たく、守銭奴の彼は、甥がせっかく食事に誘っても、「とっとと失せろ」と不機嫌そう。貧しい人々への募金をお願いされても、「私にはかかわりのないことだ」と慈悲の欠片もありません。

そんなある日、昔亡くなった仕事仲間の「マーリー」の亡霊が現れます。自分と同じ道を歩まぬよう、スクルージへ忠告しに来たというのです。

そしてこれから3日間、毎晩一人ずつ幽霊が現れるという予言をスクルージに残して去っていきます。

一晩ごとに現れる幽霊は、彼に「過去のクリスマス」「現在のクリスマス」「未来のクリスマス」の幻を見せます。

幽霊たちと見たそれぞれの場面から、スクルージは何を思うのでしょうか。

そして、亡き盟友マーリーの想いは伝わったのでしょうか。

一見するとものすごく性格の悪い老人に見えてしまうスクルージですが、一度読み終わった後、再びはじめに戻って読んでみてください。最初に読んだときとは少し違ったイメージを彼に抱くかもしれません。

タイトルはよく聞くけれど実際に読んだことは無いという方は、これを機会にぜひ手に取ってみてはいかがでしょう?

色々な映画や舞台作品でもこのお話は題材とされているため、活字が苦手な方はそちらから入るのもオススメですよ♪

【古道具屋皆塵堂シリーズ 猫除け】人間の怖さとやさしさがあふれる 怪談時代劇

今回は「輪渡颯」さんの時代小説『古道具屋皆塵堂』シリーズの2作目『猫除け』を読書いたしました。

 

この小説は、いわくつきばかりが集まる古道具屋皆塵堂にやって来る、因縁のある物が起こす怪異や事件に巻き込まれて行く人々の物語で、登場する市井の人々の気持ちのいい性格や人情味が光ります。

 

このシリーズでは巻ごとに主人公が変わり、様々な事情で皆塵堂で働く事になる主人公の一冊通しての成長の物語を描いていきますが、今回の主人公は皆塵堂で丑の刻参りの道具一式を手に入れた庄三朗が主人公です。

 

叔父に騙されて、何もかもうしなったその恨みを晴らすべく丑の刻参りを行おうとする庄三朗ですが、そこにやってきた飄々とした皆塵堂の店主にさそわれて、住み込みで働くことになります。

 

店主が格安で搔き集めてくる品にまつわる様々な怪異が起こり、一作目で主人公を務めた幽霊が見える若旦那太一郎や、猫好きの気っぷのいい魚売り巳之助などの人々の助けを借りて解決されていきます。

 

その様々な事件を経て、シリーズの中でも心根の優しい庄三朗が恨みや悲しみから立ち直る姿にも注目です。

 

怪異の背景には、凄惨な事件だけではなく、嫉みや欲だったりした鬱屈した心が引き起こすものもあり、現代にも続く人の闇とそれに対する人々の真っ直ぐな心、悪徳に怒り悲劇に悲しむ姿が光ります。

 

読みやすい文章の小説なので、普段は時代小説を読まない方も一度読んでみてはいかがでしょうか。

【学校の階段】疾風怒濤なコメディー青春小説

さて今回ご紹介する本は、ライトノベルの『学校の階段』シリーズ、エンターブレインより発売されまして、著者は「櫂末高彰」さんです。

このお話は主人公の新入生が、高校の校内を走り回ってレースをする、学校非公認の階段部へと勧誘をされて、なしくずし的に参加するうちに、「とにかく走りたい!」と走ることへの情熱に目覚めてゆく青春コメディーとなります。

漫画的な舞台設定なのですが、他校との対抗戦にライバル、最終巻近くでは卒業する先輩との最後のレースなどシリアスな部分の盛り上がりや、階段踊り場でのターン技術の解説、さらにレース打ち込む主人公の葛藤や心情などは、まるで実在する競技のアスリート小説のようです。

階段を駆け上がり、そして駆け降りるレースシーンや魅力的なキャラクター、日常のパートで巻き起こる事件などの面白さが手軽に読めて、一晩での読書にぴったりのシリーズでした。

【仮面舞踏会 伊集院大介の帰還】ネット上にある顔の見えない恐怖

今回私がご紹介する本は「栗本薫」さんの推理小説の傑作、『仮面舞踏会 伊集院大介の帰還』です。

この物語は、インターネットがの黎明期とも言える時代での事件を描いたものですが、今この時代と照らし合わせてもおかしくないような小説となっておりますので、今の方々にも楽しんでいただける仕上がりであると言えます。

この小説は作者の人気シリーズ伊集院大介シリーズの中の一つであり、前作で一つの区切りがあって、言わば第二期の始まりにあたる作品であります。

過去の事件では被害者家族として登場した少年だった稔が成長してワトソン役となり、彼の視点で物語は進んで行きます。

物語はパソコンネットで性別を偽り、姫のハンドルネームでちやほやされるのを楽しんでいた稔の友人が泣きついてくるところから始まります。

オフ会の身代わりを頼んだ女性が通り魔に襲われ、狙われたのはネット上の姫かもしれないと訴える友人のために調べ始めた稔は、やがて行方が分からなくなっていた伊集院大介と再会することとなり、彼の協力を受けて真相へとたどり着くことになります。

伊集院大介シリーズでは精緻なトリックや派手なアクションは少ないですが、人の心の奥底にある悪意にスポットを当てたホラーテイストのあるサイコサスペンスがメインで、静かにじわじわと進んで行くところが魅力です。

冬の寒さにマッチする静かで凍えるサスペンス。この機会に一度試してみてはいかがでしょうか。

【殺意は砂糖の右側に】テンポの良い名作科学推理小説

今回の私の読書記録は「柄刀 一」さんの科学ミステリーのシリーズの一つである『殺意は砂糖の右側に』です。

科学ミステリーと言えば、テレビドラマ化された東野さんの探偵ガリレオが有名ですが、クールで少し皮肉屋なこちらの主人公に対して、この作品は、離島で育った気弱で純朴なちょっとズレた竜之介という青年が主人公という、対照的な主人公になっています。

シリーズの第一作目となるこの作品は、竜之介が、研究者の祖父とふたりで暮らした小笠原諸島から祖父の死後初めて出て来て、語り手となる従兄弟の青年光章と暮らす事となり、祖父から後見人として指名された祖父の旧友を探す中で巻き込まれる様々な事件をその数学、科学的知識で解決してゆく物語です。

やがてその人物がフィリピンにいることが判り、舞台は飛行機の内から南国の島までバラエティーに富んだ作りです。

このシリーズの魅力は何と言っても主人公竜之介の人柄でしょう。


その純朴で柔らかい性格、そして時にコメディーのように「十日間で三キロも太ってたのよ、一日平均0.3キロ」と言われて「でもカナダの珍獣ハープシールの乳児は、一日に2キロずつ増えていくそうですよ」と返して「珍獣と一緒にしないでよ!」と怒られるようなやり取りになる真面目でズレた受け答え等々です。

さて、その後のこのシリーズでは、やがて竜之介は学ぶことの楽しみを伝えるための総合学習施設を開くために奔走する姿を描いてゆきます。

当初はまだ自発的な行動の少なかった竜之介が、様々な人々との親交の中で成長していった姿を見ることは、シリーズ物ならではの楽しみです。

また、その施設が建設された場所が地元の秋田なので、親近感が湧いてきてうれしくなりました。

一話完結の短編集なので、自分の時間に合わせて読み進めることができます。お好みに合えばシリーズの他作品もお楽しみください。

【A MASKED BALL】手軽に満足できるゴシックホラー小説

今回私が読んだ小説は、「乙一」さんのゴシックホラー小説『天帝妖狐』の文庫版に表題作とともに収録された短編「A MASKED BALL」です。

中編や短編小説も数多く著作している作者だけあっての安定感があり、作者のネームバリューで選んでみても満足のできるお話です。

物語は主人公である高校生の上村が、隠れてタバコを吸うために使っていた人の来ない敷地の隅のトイレの中で一つの落書きを見つけるところから始まります。

やがて落書きを介した奇妙なやり取りが始まり、その内容が学校で起こる事件とリンクしている事に気が付いた主人公は、事件の真っ只中へと進んで行きます。

巻末の解説で、作家の我孫子武丸さんが「ネットワークの匿名性の物語である」と指摘していましたが、顔の見えない相手への疑念と恐怖の描き方は、同じようなシチュエーションの他のお話とは一線を画す面白さがあるように感じます。

さらに現実世界が舞台になったことで作品世界の存在感と臨場感が増したように思いました。

派手な惨劇ではなく静かに淡々と進んで行く物語はホラー小説が苦手な方にも、もちろんお好きな方にも楽しんでいただけるものと思います。

また百ページほどの短編で一気に読み進めることができますので、ちょっとした空き時間の解消になどに時間を気にせずに楽しむことが出来るでしょう。

これを機に興味を持たれた方は、これぞホラーといった表題作の『天帝妖狐』と一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか。