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【A MASKED BALL】手軽に満足できるゴシックホラー小説

今回私が読んだ小説は、「乙一」さんのゴシックホラー小説『天帝妖狐』の文庫版に表題作とともに収録された短編「A MASKED BALL」です。

中編や短編小説も数多く著作している作者だけあっての安定感があり、作者のネームバリューで選んでみても満足のできるお話です。

物語は主人公である高校生の上村が、隠れてタバコを吸うために使っていた人の来ない敷地の隅のトイレの中で一つの落書きを見つけるところから始まります。

やがて落書きを介した奇妙なやり取りが始まり、その内容が学校で起こる事件とリンクしている事に気が付いた主人公は、事件の真っ只中へと進んで行きます。

巻末の解説で、作家の我孫子武丸さんが「ネットワークの匿名性の物語である」と指摘していましたが、顔の見えない相手への疑念と恐怖の描き方は、同じようなシチュエーションの他のお話とは一線を画す面白さがあるように感じます。

さらに現実世界が舞台になったことで作品世界の存在感と臨場感が増したように思いました。

派手な惨劇ではなく静かに淡々と進んで行く物語はホラー小説が苦手な方にも、もちろんお好きな方にも楽しんでいただけるものと思います。

また百ページほどの短編で一気に読み進めることができますので、ちょっとした空き時間の解消になどに時間を気にせずに楽しむことが出来るでしょう。

これを機に興味を持たれた方は、これぞホラーといった表題作の『天帝妖狐』と一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか。