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【殺意は砂糖の右側に】テンポの良い名作科学推理小説

今回の私の読書記録は「柄刀 一」さんの科学ミステリーのシリーズの一つである『殺意は砂糖の右側に』です。

科学ミステリーと言えば、テレビドラマ化された東野さんの探偵ガリレオが有名ですが、クールで少し皮肉屋なこちらの主人公に対して、この作品は、離島で育った気弱で純朴なちょっとズレた竜之介という青年が主人公という、対照的な主人公になっています。

シリーズの第一作目となるこの作品は、竜之介が、研究者の祖父とふたりで暮らした小笠原諸島から祖父の死後初めて出て来て、語り手となる従兄弟の青年光章と暮らす事となり、祖父から後見人として指名された祖父の旧友を探す中で巻き込まれる様々な事件をその数学、科学的知識で解決してゆく物語です。

やがてその人物がフィリピンにいることが判り、舞台は飛行機の内から南国の島までバラエティーに富んだ作りです。

このシリーズの魅力は何と言っても主人公竜之介の人柄でしょう。


その純朴で柔らかい性格、そして時にコメディーのように「十日間で三キロも太ってたのよ、一日平均0.3キロ」と言われて「でもカナダの珍獣ハープシールの乳児は、一日に2キロずつ増えていくそうですよ」と返して「珍獣と一緒にしないでよ!」と怒られるようなやり取りになる真面目でズレた受け答え等々です。

さて、その後のこのシリーズでは、やがて竜之介は学ぶことの楽しみを伝えるための総合学習施設を開くために奔走する姿を描いてゆきます。

当初はまだ自発的な行動の少なかった竜之介が、様々な人々との親交の中で成長していった姿を見ることは、シリーズ物ならではの楽しみです。

また、その施設が建設された場所が地元の秋田なので、親近感が湧いてきてうれしくなりました。

一話完結の短編集なので、自分の時間に合わせて読み進めることができます。お好みに合えばシリーズの他作品もお楽しみください。